院長のコラム

“ドクトル・イトウの地球の果てまで“ 世界60ヶ国以上を訪れた、院長のちょっと変わった見聞録

第55回 南米の高地へ:高山病とその予防について

これから、中南米の美しい景色を紹介していく。特に南米の高地の景色は本当に素晴らしい。ただ、日本人が国内では到底経験できない高さを、徐々に高度を上げていく登山とは違って、いきなり体感することになるので、健康上のトラブルが多いのも確かだ。
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サンペドロ・デ・アタカマ近郊(チリ)標高4000m

自分は高山病の専門家ではない、また登山家でもアスリートでもない。唯一自慢できることといえば、ペルーで過ごした4年の間に、ごく一般的な旅行者として、ペルー、ボリビア、チリの高地を旅行して、家族と共に標高3500から5000mまでの高度を実際に体感したことと、仕事上で現地の医療事情をよく知っている、日本人としては珍しい医者だということだろうか。
またペルーに勤務中の職務として、高山病で重症化した日本人旅行者の救援保護に関わってきた。その経験と知識を元にこれから南米の高地を旅行する方に、高山病とその予防についてまずは書いてみたい。
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マチュピチュ(ペルー)標高2400m

以下の文章は自分が勤務中に大使館ホームページに書いた高山病についての注意書きで、まずは基礎知識として読んで欲しい。

高山病について
 低地から高地に上がった時、その低気圧、低酸素状態に身体が順応できないことが原因で起こる一連の症状を言います。低地から2500mの高地に短時間で移動した成人の約25%に、何らかの高山病症状が認められると言われています。特に低地から飛行機で一気に高地へ上がると症状が出やすくなります。観光地として有名なクスコは3400m、ティティカカ湖は3800mの高地にあり、実際、リマからこれらを訪れた旅行者の多くが、何らかの高山病症状を経験すると思われます。軽度の山酔いから、個人の体質によっては比較的重い高山病を起こします。
 高山病の初期症状は、頭痛、呼吸浅薄感、食欲低下、腹部の膨満感、などで、就寝後も眠りが浅く、頻回に目を覚ます不眠感も典型的な症状です。高山病は重症化すると肺に水が溜まる「高地肺水腫」や脳がむくむ「脳浮腫」となり、すぐに適切な治療を受けると共に、急いで低地へ下がらないと死亡に至ることがあります。
 高山病の発症はその日の体調などによっても左右されるため、無理な日程は禁物です。特に高地に到着した初日は十分な休養を取るようにしましょう。過去に高地で高山病にならなかったことは、今回高山病にならないと言う保証にはなりません。ただし、過去に高山病の経験のある方は、特に注意を要します。また、低酸素状態は心臓や肺に大きな負担をかけるため、心臓疾患や肺疾患のある方は事前に医師に相談されること強くおすすめします。

高山病の予防
1. 高地に到着後、初日は十分な休養をとる。
(余裕のある計画を心がける)。
これがもっとも大事です。"ゆっくり、ゆっくり"を心がける。
2. 空港に着いたら"ゆっくり、ゆっくり"歩き、なるべく階段の使用を避ける。
3. 水分を十分に摂る。
4. 高地では低気圧、低酸素のため消化機能が低下するので、腹8分目に心がける。
炭水化物を多めにとり、脂肪分は控えめにする。
5. アルコールの摂取はできるだけ避ける。睡眠薬の使用も控える。
6. 高山病予防薬について
アセタゾラミダAcetazolamida(製品名ダイアモックス: Diamox)の内服は高山病の予防効果がある他、頭痛や不眠などの高山病の症状を改善させる効果があります。アセタゾラミダは日本では医師の処方箋を必要とする医薬品ですが、ペルーの薬局では処方箋なしでも購入することができます(空港内の薬局でも購入できます)。
薬局では必ず『アセタゾラミダAcetazolamida 250mg』と注文して下さい。
当地では『ダイアモックス』という商品名は一般的ではありません。

予防内服方法は、成人の場合 高地に上がる当日の朝より、
1日2回(朝と寝る前) 125mg (250mg錠ならば半分に割って)内服します。
服用後、手指にしびれ感を感じることがあります。
アセタゾラミダには利尿作用(尿の量を増やす作用)があるので、水分を十分に補給してください。高血圧や心臓病、糖尿病等慢性疾患をお持ちの方は内服前に必ず医師に相談してください。

薬局が勧める『SOROJCHI PILLSソロチピル』は単なる頭痛薬で、高山病の予防薬ではありませんのでご注意下さい。
以上
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雨のマチュピチュ(ペルー)標高2400m

特に、食事を少なめに食べることと、高地に滞在中は食事には特に厳重に注意して、決して冒険をせず、お腹の健康を保つことだ。高地でお腹をこわしてひどい下痢をすると最悪のシナリオになる。高級ホテルと言えども、野菜を含め出来るだけ生のものを避けるのが賢明だろう。
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ウユニ塩湖(ボリビア)標高3700m

また、ダイアモックという名前が
ペルーの薬局では通用せず、『アセタゾラミダAcetazolamida』という名前しか通用しないことも、おぼえていって欲しい。
特に『SOROJCHI PILLSソロチピル』には気をつけて欲しい。現地の人や薬局は「高山病の薬」としてこの薬を必ず勧めてくる。
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では、少しこの『SOROJCHI PILLS:ソローチェピル』に付いて説明する。
決してこの薬を非難するわけではなく、これは単なる頭痛薬であることを知って欲しい。
組成はアスピリン、カフェインなどで、日本の「バファリン」によく似た薬だ。つまりこの薬は鎮痛薬、解熱剤であって、確かに頭痛には効くが、高山病を予防する効果は無いといっていいだろう。
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雨期のウユニ塩湖(ボリビア)標高3700m

この『SOROJCHI PILLS』の飲み方には高地にいる間、8時間毎に服用するように書いてある。
通常の日本人が何日間も1日3回バファリンを飲み続けたらどうなるだろう。
高地ではお腹をこわすことは御法度だ、下痢は高山病を急速に悪化させる。胃腸の弱い人がバファリンを1日3回飲み続けたらどうなるか。。。逆に体調が悪くなるだろう。
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Lago Querococha(ペルー)標高3980m

現地で頭が痛いというと、薬局だけでなく、現地の人々や旅行関係者までも当たり前のようにこの薬を持ってくるので、十分注意して欲しい。当然、単発で飲む頭痛薬としては何の問題もないのだが。。

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ワスカラン国立公園(ペルー)標高4800m

ペルーに勤務中によく受けた質問が、高地に子供を連れて行って大丈夫であろうか?と言う質問だ。その多くが南米の駐在員の家族で、せっかく南米に来たのだから、マチュピチュは是非見てみたい、というものだ。
子供は高山病に弱いとよく書かれているが、実際のところはよくわかっていない。ただ、子供が頭痛や嘔気で水分が摂れなくなったら、その悪化は大人より深刻になるだろう。

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プヤ・ライモンディ(ペルー)標高4000m

子供同伴の可否について、自分なりの一つの基準を持っていた。それは、体調の悪さ(頭が痛い、お腹が痛い)を自分で訴える事のできる年齢かどうかと言うことだ。個人差もあると思うが4〜5歳ぐらいが基準になるのではないかと思っている。
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パストルリ氷河(ペルー)標高5000m

自分は比較的高地には強い方であった。5000mでも何とか観光をこなすことは出来た。ただし、標高2850mにあるキト(エクアドル)への出張時、いつも到着初日はお腹が張って食事が進まず、夜は熟睡できずに何度も目が覚めた。高地から戻ると数日間は強い全身倦怠感が残った。高地では予想以上に体力を消耗する。

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月の谷:アタカマ(チリ)標高2600m

高地にあるホテルや空港には必ず酸素ボンベが用意してある。ホテルで体調が悪いというと酸素ボンベを部屋へ持ってきてくれる。自分は何度も高地へ行ったが、一度だけその酸素ボンベのお世話になりかけたことがある。行きなれたクスコ(3600m)へ友人を連れて行き、調子に乗って、いつになく夕食を腹一杯食べビールを飲んだ。その夜、異常な息苦しさに目を覚まし、もがきながら朝を迎えた。もう少しで酸素ボンベを頼むところだった。
高地では腹7分目が大事であることを、身をもって思い知った次第である。
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月の谷:アタカマ(チリ)標高2600m

唯一の高山病予防薬として認知されているダイアモックスであるが、飲んで調子が悪いという人も少なからずいる。できれば旅行前に数日服用してみて、問題ないかどうかを確認しておいた方がよいだろう。
最後にこれはあくまで私見であるが、高山病の予防に漢方薬の「五苓散」がその薬効から有効であろうと考える。
頭痛や吐き気や下痢の薬にもなるし、ダイアモックスよりも副作用が少なく効果があるのではないかと考えている。
高地へ出発する日の朝から1包(2.5g)を1日3回、高地に滞在中飲んでいればよい。
「五苓散」は小児科でも下痢や吐き気に頻用する薬なので、子供にも安心して使用できる。

次回より、アタカマ(チリ)からウユニ塩湖(ボリビア)への4WDでの旅を紹介したい。

※このブログを見てくれた読者から、高山病予防薬の処方についての問い合わせをクリニックにたくさんいただいている。
当院でも2014年4月1日より高山病予防薬(ダイアモックス)の処方を開始することとした。
詳しくは「高山病予防薬の処方について」をご覧下さい。

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